それは救いの手にも似て
「ジュン、淳之介!!」
息を切らして僕のもとへ走って来る遼太郎。これは、三日前の記憶だ。
「ごめん、リョータ。こんな所に呼び出して」
あぁ、そうか。
この日僕は、遼太郎を今はもう神主がいない小さな神社に呼び出した。
人々に忘れ去られた小さな神社は、竹藪に囲まれており、僕達の恰好の遊び場だった。来るのは久しぶりだったはずだ。
「ジュンがここに呼び出す時は何か秘密を教えてくれる時なんだ。知ってたかい?」
「……知らなかった」
確かにそうかもしれない。
「でも僕は君が何を言おうとしているのかわかるよ」
目が笑わないまま口許だけで笑う遼太郎に、思わず首を振る。
「違う。それじゃないんだ」
「?」
「僕は結婚なんかしたくないんだ」
僕の言葉に、遼太郎の作ったような笑顔が、一瞬崩れた。
「え?僕は自由恋愛だと聞いていたんだけど──……違うのかい?」
「立派な政略結婚さ。きっと両親は世間で自由恋愛が流行っているから、そういうことにして……。とにかく、佐藤舞子なんて、名前も聞いたことないんだ」
「僕知ってる。いつも君のことを見ているきれいな子だよ」
いつも僕を見ている?
心当たりは、ない。
「それでも僕は結婚する気なんて──……」
「ねぇ、僕が助けてあげようか?」
「本当かい!?」
「あぁ」
遼太郎は屈託なく笑った。その笑顔は、女顔なのも相まってとても美しかった。
「僕が君を、殺してあげる。どうだい?全てからの解放だ」
純度十割の殺意。
まったく。君は、そればかりだ。
「よろしく頼むよ、リョータ」