入学式
エミィに食堂やシャワールームの場所を教えてもらって、周りの視線から逃げるように部屋に戻った。
「怖い……」
「ココ、顔が真っ青よ。どうしたの?」
「ねぇ、今度は私の話するね」
ラグに座って、間藤一族と名前、魔力の話をした。エミィは相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。
「前は……どう思われているかなんて、不安に思わなかった」
「感情のせいってわけね。でもアタシ、その養父さんは正しいと思うわ。だって感情がないなんて何のために生きてるのかわからないもの」
「でも、怖くて不安で……どう人と接したらいいのかわからない」
「アタシとこうして話してるじゃない」
「エミィは、えっと……先に腹を割って話してくれたわ」
ふーん、と呟いてエミィは首を傾げた。
「友達を作れるか不安ってわけね」
「友達……私、友達いたことない……。だから不安なんだわ。エミィともいつケンカしてしまうかわからない……」
「そんなの! 仲直りしたらいいの!! 悩むのは後でいいの」
「そうかなぁ……」
感情って、なんて難しい。怖くて怖くてたまらない。
「パパに名前を返してほしいなぁ」
「パパって呼ぶことにしたのね。喜びや恋を知ったらそうも言ってられなくなるわ」
エミィはにっこり笑って私の頭を撫でた。
間藤恐はお父さん。クライヴはパパ。そう呼び分けることにした。
「あのさぁ……。何で頭撫でるの? パパも撫でたわ」
「は……?」
「どこかが痛い時に撫でるのはわかるけど……、怖いけれど、特に痛くは……」
エミィが首を傾げる。それだけでなまめかしい。どういう種類の鬼人種なのかはなんとなくわかった。調べておいた方がいいかもしれない。
「えっと……ヨーロッパだけの愛情表現なのかしら」
「愛情?」
「うーん……可愛いねって頭を撫でるのよ」
「そう」
「これからどんどんこういう疑問が増えそうね」
「うん」
ベッドに寝転んでみる。想像よりちょっとだけ硬い。畳に敷いたお布団みたいだ。
「エミィは何か魔法を使える?」
「うーん? 人間の姿になることくらいかしら。もっとも、この魔法を解いたらきっと学校から弾きだされてしまうけど」
「なんで魔法学校に?」
「トモダチを探すためよ。魔力をたどるとか、そういう魔法があったら使いたいわ。悪魔の魔力はただの生命力でしかないから使い方もわからないし」
「ふーん」
鬼人種は、魔法を使えないのか。意外だなぁ。
「友達、見つかるといいね……」
「そうね。寝ましょ。明日は入学式よ」
「うん」
電気を消して、ベッドにもぐりこむ。魔法が使えるようになったら、きっと電気を消すのだってベッドに入ったままできるわ。
ぼんやり考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
「ココ、朝よ」
「っ、」
びっくりして起き上がる。そうだ、学校の寮だった。考えてみれば、今まで自分のプライベートな空間に他人がいたことってない。
「び、びっくりするのって、胸が痛くなるのね。ドキドキしてるわ」
私が言うと、エミィはくすくす笑った。早く着替えなきゃ、と私を急かす。エミィは既に制服に着替えていた。
制服は――たぶん男女関係なく――8分丈のパンツで、同じ淡いグリーン色のチェック柄のネクタイをつける。ブレザーは灰色。どこか暗い印象だ。けれど、エミィが着るとそれすらも華やかだった。
「ネクタイ、曲がってる」
「あ……」
「ふふ、ココったら」
「ありがとう……」
エミィは、優しい。
朝食を食べると、寮の前に1年生が集められた。大半が私と同い年ぐらいだけど、うんと小さい子や、エミィみたいな大人っぽい人もいた。
名簿順に名前を呼ばれて、あらかじめ振り分けられていたクラスに分けられていく。あまり深く考えなかったけれど、ココの綴りはKではなくCだったようで思っていたより随分早く名前を呼ばれた。
「ココ・ブレナン!」
「あ、はい!」
「あなたは……ベータクラス……」
先生らしい人は、私の顔をまじまじと眺めながら言った。
「……あなた、ちょっと保留よ。ベータクラスの魔力じゃないわ」
クラスが振り分けられた後にクライヴに取られた名前分の魔力が増えたんじゃないかって、こっそりエミィが教えてくれた。エミィはかつて、名前を奪われた人を見たことがあるらしい。
「ココ・ブレナン。ちょっと、あなたには校則について歩きながら話すわ。ついて来て」
「はい」
先生に名指しされて、変に注目が集まる。顔から火が出そうだった。少し神経質そうな先生は、歩くのもせかせかしていた。追いつくのがやっとで、話の内容はあまり入ってこなかった。「人を傷付けるような魔法を使ったら、退学」「吸血鬼や悪魔を差別しないこと」……。聞き取れたのは、それくらい。
「あの、同じ部屋のエミィ……、エマは、悪魔なんですよね?」
「あぁ、《魅惑》ね。有名な悪魔ですよ。夢を食べるだけの獏です」
「夢を食べる悪魔……」
「悪魔が怖いですか?」
「いいえ、エミィは、全然……。大好きです」
「よろしい。あなた、日本人だったわね。だから相部屋にしたんでしょうけど」
先生がふと立ち止まって、大きなドアをノックする。エミィに会う前と一緒だ。ドアから濃密な魔力があふれ出てくる。
「校長先生、少しお話が!」
「……何でしょう?」
「入ってもいいですか!」
「……入らなきゃ、だめですか?」
校長先生の声は、か細くて心細そうな声だった。
「先生、生徒がいるんです。しっかりしてください」
「……どうぞ」
ドアが急に開いた。
奥には、若く見える女の人が佇んでいた。少なくとも隣に立っている先生よりは若く見える。校長先生は、おどおどしていた。そばかすがあって、少しやぼったい感じもする。何歳なんだろう、校長先生になるくらいなのだから、すごい魔女なのだろうか。
「な、何でしょう?」
「彼女はココ・ブレナンといいます」
「あぁ、ブレナン先生の娘さん」
「……ベータクラスに振り分けられていましたが、魔力が桁違いです。かなり上位の魔力です」
「それは不思議ですね」
校長先生が大きな水晶玉をせわしなく布で拭いている。まるで上の空のような返事に、先生は少し苛立っているようだった。
「アルファクラスに移すべきです」
「ココさん、あなたはどちらがいいですか?」
「……私……エミィと一緒が……」
「では、《魅惑》とは離すべきです」
「!」
意地悪にしか聞こえなかった。びっくりして校長先生を見ていると、彼女はくすりと笑った。
「私が意地悪を言ったように聞こえましたか? この先あなたは、《魅惑》をずっと頼りにするわけにはいきません。喜びも悲しみも、《魅惑》に教えてもらうものではないからです。あなたが《魅惑》の陰に隠れるつもりならば、こちらとしては引き離して成長を望むしかありません。わかりましたか?」
まるで、校長先生は私が最近感情を手に入れたことを知ってるみたいだ。校長先生は水晶玉を覗き込んだままこちらを見向きもしない。
でもそれよりも、なんでエミィの名前を呼ばないのか。そっちの方が気になって仕方なかった。《魅惑》というのはエミィの通り名なのだろうか。
「ウォーリック先生、彼女はベータクラスです」
「……はい」
「入学式に、向かいましょう」
ウォーリック先生の魔法で、私は瞬間移動していた。これから式が始まるという時だった。
「ココ、何があったの?」
「魔力の量ではアルファクラスの在籍資格があるんだけど、エミィにばっかり頼っちゃだめってことでベータクラスになった」
「アタシのせい?」
「違うわ。何でもエミィに頼ればいいと思った私がいけないのよ」
首を振って正面を向きなおす。後から来た私は列の後ろに並んだので、クラスメイトを眺める事ができた。
隣の列……つまり、アルファクラスの面々はどことなく華やかで、晴れやか……ベータクラスは対照的に感じた。それはそうか。アルファとベータじゃ、レベルが変わってくる。努力次第という話だけど、魔力の量でクラスが決まっているのだから、努力ではどうしようもない。成長すると魔力の増減があるみたいだけど、私みたいに呪われたりしない限り魔力が急激に増幅するという事は滅多にないはずだ。魔力が少ないということは、大きな……歴史に残るような魔法は使えないということ。このベータクラスは、入学の時点で本に載るような魔女や魔法使いではないと宣告されたようなものなのだ。それでも、エヴァンジェリン魔法学校に入学できる魔法使いはほんの一握り。ここにいるみんなだって、エリートではある。ただ、無理のない範囲で魔法を教えるためには、こういう否応なしの事実を突き付けてクラスを分けるしかないのだ。
『みなさん、入学おめでとう』
校長先生が壇上に立つと、なんだか和やかな雰囲気になった。
『私は、エヴァンジェリン・ワーズワース。エヴァと気軽に呼んでくださいね』
エヴァンジェリン……?
学校の、創立者の?
だって、エヴァンジェリン魔法学校は、創立130年以上のはず……。130年以上も成人したてみたいな見た目なのは、おかしくないだろうか。
誰も驚いてない。みんな、知っていたのだろうか。
『今年も素敵なメンバーが、学校に入学してくれました。楽しい学校生活を送ってくださいね』
校長先生の話はかなり手短かだった。落ち着いて話しているようだったけれど、少し挙動不審だった。きっと、あの大きな水晶玉のことを考えているんじゃないかな。
『あぁ、アルファクラスの担任はウォーリック先生、ベータクラスの担任はブレナン先生です。それではさっそくオリエンテーションを始めてください』
かなり適当に言って、校長先生はスタスタ歩いて行ってしまった。がやがやと適当な感じで入学式が終わっていく。海外ってこんなものなのだろうか。
エミィが小さく手を振って、ウォーリック先生についていく。ベータクラスも、クライヴが声をかけて歩き出した。
「悪魔と仲良いの?」
不意に声をかけられて声のした方を見ると、オレンジ色に近い茶髪の女の子が目を輝かせていた。興味津々、の顔だ。
「私、マーリー・ロングフェロー。式の前にも話してたでしょ? あの悪魔と」
「……ココ・ブレナンよ。彼女は悪魔じゃなくてエミィって名前があるの。私のルームメイトよ。先生は無害な獏だって言ってた。とてもいい人だよ」
「ふーん。そうなの? 思ってたより、全然怖くなさそうね」
彼女はちょっとだけつまらなそうな顔をした。そしてまた、目を輝かせる。
「ココは東洋系の顔立ちなのに名前はアメリカっぽいわね? 二世か三世なの?」
「純粋な日本人よ。でも今は、養子なの。マーリーは? 地元……じゃないんでしょ?」
「私はイギリスから来たの。魔女や魔法使いなんだから、世界中から集められてるんじゃないの?」
「僕は地元だよ。チェルソ・ヴィダーリ。よろしく」
「……よ、よろしく……」
突然話しかけられて、言葉が詰まる。
今まで人と関わろうとしなかったツケが回ってきたんだ、と思った。今、このタイミングが友達を作るチャンスだってわかってる。でもどうしたらいいのかわからない。
「マーリー・ロングフェローよ」
「あ……私、ココ・ブレナン」
「ココは養子なんだって? もしかして、ブレナン先生の?」
「……」
ちらっと見ると、クライヴが肩を竦めた。別に隠す事じゃないよ……という意味で、いいだろうか。
「……そうよ。先生はお父さんの友達で、お父さんはなかなかこっちに来れないから保護者になってもらってるの」
自分でもびっくりするほどすらすらと嘘が出てきた。でもこれでいいのよ。名前を取るために養子にされたなんて、言えないもの。
マーリーもチェルソも、あっさりと信じたようだった。
「日本は陸続きじゃないものね」
「うん」
日本から近い韓国や中国から来るときだって陸続きとはいえ飛行機を使うであろうことは、黙っておくことにした。
「みんな、ここが僕らの教室だ。好きな席に座って」
人数分の机といすが所狭しと並んでいる。
窓側の席が人気だった。私は、マーリーの隣に座った。後ろに、チェルソが。
「この机やいすは寮と一緒。自分好みにカスタマイズできる。高学年の子はうたた寝しても先生に怒られないようにシールドを張ったり、イスをふわふわにしたり」
クライヴの言葉に、笑いや歓声が起こる。みんなわくわくしている。
「今日は年間スケジュールの紹介と学校の中を案内して、ご飯を食べて解散」
日本の学校だったら、最初に自己紹介タイムがある。でもきっと、自分からアクションを起こさなきゃいけないんだ。
「さて、年間スケジュールと時間割を配るよ。みんな、行きわたった?」
年間スケジュール表には、キャンプやスポーツ大会など、普通の学校のような行事が並んでいた。冬休みを挟んだ2学期制で、学期ごとにテスト期間が設けられている。
時間割は、仕組みがよくわからないけど、この表が1週間ごとに魔法で変わる仕組みらしい。毎日3、4コマしか授業がない。3年生からはいろいろな授業を選べるみたいだ。
「さて、じゃあ……学校を案内するよ。この教室を使う授業はほとんどないけど、学校の中には決められた居場所があった方が安心するからね。休憩時間や放課後に自習室として使うっていうのもいい」
「先生」
「はい、ベルタ・インドゥライン」
「さっき、机やいすをカスタマイズできるって、言いましたよね。ほとんどが移動教室なら、このカスタマイズは意味がないのでは?」
「あぁ、それは別の教室に移動してから説明するよ。とりあえず、君の机をカスタマイズして説明に使わせてもらうね」
クライヴがパチンと指を鳴らすと、ベルタ・インドゥラインの机が石の机になった。
みんなはガタガタの石の机になったことを笑っていたけれど、私は指を鳴らすだけで魔法が使えることにびっくりしていた。これも普通なのかな。
「廊下に並んで……いいね。迅速だ」
「ねぇ、ココ」
「なあに?」
「ブレナン先生って、父親にしては若すぎない?」
「うーん? お父さんの友達って言ってたし、そんなに若くないんじゃないかな。私も、こっちにきて初めて会ったのよ。詳しくは知らないの」
「私語は慎むように」
他にも話している子はいたし、私達に言ったんじゃないとは思うけど、なんだか悪口を聞かれたみたいな気分で口を噤んだ。
「ここが、魔法理論実践研究室。担当はウォーリック先生だ。……誰もいないみたいだから、入ってみようか」
全員が教室に入るのを確認すると、後ろの生徒にも見えるようにクライヴが机を持ちあげた。
「右奥に名前を書くスペースがあるんだ」
確かに、木の机に一部白い部分がある。
「ベルタ、ここに名前を書いて」
「はい」
クライヴが置いた机にベルタ・インドゥラインが名前を書くと、入れ替わったように机が石になった。
「これで、他の教室でも自分のカスタマイズした机になる。引き出しにテキストを入れておけば、手ぶらで教室を移動できるってわけさ」
「これは魔法なんですか?」
「そう。だけど校長先生の魔力を使ってるんだ。移動教室の度にこんな魔法使ってたら、魔力が少ない子は授業に支障が出るからね」
今、クライヴはあっさり言ったけど、魔力を使うとかなりの疲労感があるはず。校長先生の魔力はそれほど桁外れなのだろうか。
「机を戻す時は名前を消して。オーケー、案内を再開するよ」
校舎の塔は1階が入学式で使ったホールになっていて、2階以上は東西南北の4つに分かれている。1、2年生までは南の塔しか使わないらしい。クライヴについて行っただけだったけど、自習室も南塔にあるようだ。3、4年生は自習室が東になって、選択内容によっては南と東の塔を使う。5、6、7年生になるとほとんどの西塔しか使わない。北は、部室ばかりの塔になっているらしい。
1年生の授業で使う教室を見て回ったけど、どうも覚えられる気がしなかった。
「今日はこれで終わり」
クライヴが言うと、何人かが立ち上がった。
アルファクラスは終わったかな。エミィと一緒に部屋に戻ろうと教室を出ると、マーリーがついてきた。
「ココ、あんた部屋どこ?」
「てっぺんよ。マーリーは?」
「なんか中途半端なとこ」
「一緒に帰る? あ、エミィのクラス終わったかなー?」
「……うーん、あんた、悪魔怖くないの?」
「悪魔じゃないわ、エミィよ」
「そうね。悪魔は怖いけど、エミィは怖くないかも……」
マーリーがぐずぐず言っているけど、アルファクラスに向かう。エミィは教室の隅の席に座っていた。
「エミィ、終わった? 帰ろう」
「……ココ……。えぇ、帰りましょ」
「エミィ、彼女はマーリーよ。マーリー、彼女がエミィ」
「……初めましてマーリー。ココと仲良くしてあげてね」
「よろしく、エミィ」
エミィは目を細めて笑顔を作った。マーリーもぎこちないけど、全然怖がっている感じはしない。そうよね。鬼人種イコール怖いなんてナンセンスだ。エミィはエミィなのだから。
並んで寮の入口をくぐると、右の螺旋階段をぐるぐるとのぼっていく。マーリーの部屋は本当に中途半端な位置にあって、どれくらいの高さなのかもわからないくらいだった。ずっと螺旋階段脇にドアが並んでるから目印もなくて、ドアについている名前でようやくわかるくらいだ。
「それじゃ……、あ、どうせ暇だし、着替えたら部屋に行くね。てっぺんでしょ」
「うん」
マーリーに手を振って、更に階段をのぼっていく。
「マーリーが話しかけてくれなきゃ、私一人だった」
「……そう」
「でも、マーリーは私がエミィと話してたから話しかけてきたのよ」
「なんで悪魔と話してるのかって?」
「うーん……悪魔と仲良いの? って言ってた気がする。それで、私言ったのよ。悪魔じゃないわ、エミィっていう名前があるのよって。そしたら、……えーっと……放課後、エミィと一緒に帰るって言ったら、悪魔は怖いけどエミィは怖くないかもって、それで一緒にエミィの教室に来たのよ」
「……そう……」
「どうしたの? エミィ」
「ありがとう、ココ」
エミィは泣きそうな顔で言った。潤んだ目で無理矢理笑顔を作ってる。
「……どうしたの……?」
「あんた達、歩くの遅いわねー。追いついちゃった」
走ってきたのか、マーリーが息を切らしていた。
何故疲れるのにわざわざ走ってきたのか。それは、悪いことではない……とは、思う。でも、ちょっとだけわからない。後でエミィに聞こう。
「ね、寮のドアって鍵がないよね」
「あんた、説明聞いてないの?」
「住人の魔力じゃなきゃ開かないようになってるのよ。移動教室の机もそう」
「へぇ……。二人とも、物知りね」
部屋に入ると、マーリーはうわ……と声を漏らした。
「二人とも物置かないんだ? ベッドとデスクくらいしかないじゃない」
「タンスもあるわ」
「そういう意味じゃないっつの」
エミィがおいしそうな飲み物をテーブルに置いた。
「何これ、おいしそう」
「ハーブティーよ」
「ふーん、ほんと、エミィのこと誤解してたよ。ありがと」
「よかった! エミィ、よかったね!」
「えぇ……」
「ねぇ、なんでマーリーはエミィが鬼人種だって知ってたの? 私、エミィに教えてもらったから知ってるけど」
「はぁ? ……あぁ、うちは一応、魔法使いの家系だから……知らないのはあんたと魔法使いの家系じゃない子くらいじゃないの」
「エミィ、有名なの? あ……そういえば、ウォーリック先生が言ってた。有名な獏ですよって。通り名まであるんでしょ?」
校長先生も、通り名で呼んでた。エミィはとても悲しそうに眉根を寄せた。
「……そうね。人型の獏なんて、珍しい……っていうか、アタシくらいのものだから。珍しいだけで、何も有名になるような大それたことはしてないの……」
こっちまで泣きそうになる声で、エミィは言った。
「……ねぇ、ココ……。アタシとは、学校では仲良くしない方がいいわ」
「なんで! マーリーは、わかってくれたじゃない」
「そ、そうよエミィ。……私、最初は確かに誤解してたけど……!」
「……ありがとう。でも、あなた達まで変な人ってレッテル貼られる必要なんてないわ」
ハーブティーは、確かに悲しいのにほっとする味だった。