ポロメリア
フェリーから降り立つと、船を追いかけるように飛んでいた軍の飛行機も、すっと降りてきた。
じりじりと肌を焼く太陽の熱を感じて、大きなつばの帽子を深くかぶり直す。
坂をのぼったところにある、金網に囲まれた飛行場。大きな旅行鞄を持って待っていると、彼が出てきた。
「……大学生だっけ」
「……うん。夏休み」
島からは、出ていた。都会の大学生になったの。
モテるんだから。昔よりも、もっと大人になったでしょ。
あなたは、少しおじさんになった。それもかっこいいと思うけれど。
言いたい事がいっぱいあるのに、言葉にできない。
私の荷物を持ってくれて、一緒に家まで歩いて行く。彼の下宿先は私の家。きっと、私の帰省もあいまって、今日は豪華な夜ご飯だわ。
熱い風が長いスカートをはためかせる。彼の手を見て、息が詰まりそうになって、そうして、ゆるゆると言葉を吐き出す。
「まだ、結婚してないの?」
指に光る指輪が、私の心に影を落とす。
聞きたくない。でも聞かないと。
答えはわかっていたけど、否定してほしかった。
「ん? したよ。おかあとおとうも式には呼んだけど、聞いてないのか」
聞いてない。
不思議と、悲しくはなかった。
じりじりと照りつける太陽が、涙をすぐに蒸発させているのかも。
「そっか。よかったね」
自分でも思ってもみなかったほど、すんなりと祝福の言葉が出てきた。
私をこの島から連れ出すのは彼じゃなきゃいけなかった。けれど私は、自分を自分で連れ出すことができてしまった。
私を繋ぎとめていたのは、自分自身だったのかも。理由を付ければ、いくらだって外に飛び出せた。ずっとずっと、連れ出してくれない彼のせいにしていた。
あぁ。
夏が来ると、嬉しくて、悲しくなっていた。
でも私、本気で思っていたの。本気で夢見ていたのよ。
あなたと結婚できるって。
「あぁ、そういえば今年は――」
突き抜けるような青い空を、轟音を響かせて飛行機が飛んで行った。大きな影を作った飛行機が通り過ぎた後の太陽はすごくすごく眩しかったわ。
眩暈がするほどの、夏の空。気持ちいいほどの青に、全然、全然、失恋の痛みはなかった。
結局、憧れだったんだわ。
ねぇ、さようなら、かわいい夢。
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[youtube url=http://www.youtube.com/watch?v=D95ruvdmZNE&w=320&h=240]Coccoのポロメリアです。
歌詞はこちら。
Summertime Sadnessの続編です。
ポロメリアも、聞くたびに坂を駆けあがるワンピースを着た女の子が思い浮かびます。
宇多田ヒカルがラジオで、「Coccoさんの歌からは自然を感じる」って言ってたけど、本当にそう。
夏の、じりじり熱い太陽と、風を感じる歌。
この掌編小説は、著作権を放棄します。