Mymed:origin

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 ニューゲーム
→ロードゲーム
 オプション

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 異様に寒くてがばっと起き上がると、あたりは真っ暗だった。丸まって寝ている玲の姿が光っている。

「玲――……」

 状況を理解するとともに、口の中がカラカラになっていく。
 朝一で、昨日のゲームを捨てようとしたんだ。パッケージを持った。それだけで――引きずり込まれてしまった。

「やあやあおはよう、勇敢な姫とナイト。まさか負けが決まっているイベントで勝つなんてね」
「……お前、誰だ。どこにいるんだ」
「私は《Master》。どこにでもいるし、誰でもある。起きろ、女」

 玲がうーんと小さく唸って立ち上がる。

「ん? な、何で!?」
「このゲームはお前達が死ぬまで終わらない」
「烈? 烈が……起動したの?」
「僕は捨てようとしただけだよ。持ったら――……」

 持っただけで。
 なのに、何だよ。その顔。僕が悪いのか?

「何でよ!!」
「玲が選んだゲームだろ!!」
「……」

 一番言ってはいけないことを、言ってしまった。僕が何か言わないと、永遠に無言になってしまう。

「……行こう。クリアしたら、きっと――……」
「ククク、仲間割れか。いいぞ。さっさとゲームオーバーになって死ね」
「うるさい!! 玲と烈は、最強なんだから!!」

 玲が怒りながら、ニューゲームとオプションの間に増えた道、ロードゲームへ向かって歩いて行くのでまた慌ててついていく。

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 僕が起動させてしまったからなのか、僕が1Pになっていた。
 目の前に『これでチュートリアルは終わりです』と表示されてイベントに入ったようだ。黒騎士(無傷に戻っている)が満足げに去っていく。
 お姫様の婚礼パーティで生き残ったのはわずかな人々だけのようだった。メア――今日は僕――が、王様に黒騎士を追いかけて討伐する任務、そしてその途中でも終わってからでも、殺された王子の出身であるダルメーニャ王国への挨拶を命じられた。そして、お転婆なお姫様もついていくと言い出――さなかった。僕は一人で旅立つこととなった。

「……さっそくソロイベントかぁ」
「でも、パーティーメンバーに王国の兵士が入ってる」

 一人じゃなくても、この不気味な空間で玲と離れ離れになるのはキツい。
 お姫様用のシナリオでもあるのだろうか。

「玲、どうする?」
『メア、気を付けてね!』
「……どうしようもこうしようも……、シナリオ通りにしか動かないみたいだし」
『はい、姫様』
「あの兵士が代わってくれたらいいんだけど」

 またイベントに入ったらしく、足が勝手に動き出してしまった。と、同時に、玲が僕の後ろについてきた兵士に飛びかかるようにしてどこかへ引き摺って行く。
 ……お転婆なお姫様は反対されることを承知で、笑顔で送り出したフリをして兵士の鎧を奪ってついてくる――……そういうシナリオのようだった。

「なんだー、悩んで損した!」

 鎧を身につけた玲が元気に笑う。しかし、このシナリオのおかげで玲の防御力は6増えている。こういう兵士の鎧は装備品としてはいまいちなことが多いけど、今回ばかりはマシに見える。玲が兜を外して、賢者の帽子を装備する。そして僕に兵士の兜をくれた。

「……レベルアップとかすると強くなるのかな。腕力は僕のままなのかなぁ」
「そこらへんの敵と戦って試してみようよ」

 最初は弱い敵が出てくるっていうのが定番だけど、あの《Master》がゲームバランスを崩す可能性はないだろうか。
 昨日はバトルのチュートリアルが出なかったけれど、騎士の体力や攻撃力はいじられていなかったし……ゲームバランスはいじれないのだろうか。どうせ負けると踏んでいただけ?

「……一旦、町に戻って回復薬とか買っておこうよ」
「それもそうだねー、玲の魔法って、MPじゃん? たぶん、マップ画面で回復するときのためにMPがあるんだろうけど、バトルの時どうするんだろう?」
「それも試してみないとわからないね」

 確かに、MP――このゲームだと魔法力か――だったら体力ゲージ関係なく連発できる気もする。攻撃力ゲージとMP、どちらも制限があるのなら魔法使いは不利なジョブだ。……ジョブ変更とかあるのかな。
 そもそも、回復薬はバトル中どうやって使うのかな。使ったら攻撃力ゲージはリセットされるのだろうか。
 まったく、本当に全然チュートリアルがないじゃないか! もしかしたらあいつ、最初のチュートリアル画面見て慌てて消したのかも。僕たちを引きずり込むことができるんだから、それくらいできそうだ。チュートリアルが今後出ないのだとしたら、村人との会話が大事だな。
 村人か。……たまにあるんだよな。村人のセリフがチュートリアル代わりになってるゲーム……。

「烈、何考えてるの?」
「んー、バトルシステムとか。ほら、チュートリアルなかったし」
「でも普通、ヘルプ画面で見れるものじゃない?」

 玲がメニュー画面を開いて、メニューの一番下にあるヘルプを開く。ここもいじられているのか、選択肢はあるけど開けないものがいくつかある。アイテムについては選べるが、バトルシステムは選べない。
 見てないからかな。それともあいつの仕業かな。

「必殺技の使い方とかも見れなかったんだね」
「でも、必殺技があるってわかっただけでも収穫だよね」

 玲がニッと笑う。我が姉ながら、生粋のゲーマーだ。

「あとは、ほら、バトルで使用するアイテムは装備しなきゃいけないんじゃない? タイトルが『アイテムを装備しよう!』ってなってる」
「もう、中見なくてもいいね」
「うん。玲と烈は最強! 行こ!」

 ステータス画面を開いて見る。僕は今、剣とティアラを装備している。アイテムの装備欄は武器の装備画面をスクロールしなければならなかった。玲ならヘルプを見なくてもスクロール用の小さな矢印に気付いていたかもしれないが、これがわからなかったら危なかったかもしれない。
 用心するに越したことはないのだ。
 町で回復薬を5個と、一応毒消しを2個買った。お金は最初に王様がくれた1000ムゲ。ムゲというのが通貨らしい。一応武器屋を見たけれど、特にめぼしいものはなかった。

「防具……どうしよう」

 いつもなら、最初の町で防具は買わない。敵が落とすこともあるし、大体の場合は次の町が近くてゴリ押しでなんとかなる。
 しかし今回は本当に命の危険がある。でも回復薬があるし、玲の回復魔法もあるし……。

「悩んだときは買おう? 烈、このゲームはコンティニューがないんだよ。お金は町の周りで戦って稼げばいいんだし」
「そうだね。玲の言う通りだ」

 僕の分の防具である革の鎧と、今装備している兵士の剣よりも攻撃力の高い上級騎士の剣を買って、40ムゲになってしまった。
 今までの王道をいくシステムからいくと、お金はバトルで手に入るのだろうか。もしかしたら拾ったアイテムを売るのかな。

「40かぁ……。回復薬2個買っちゃったら?」
「ゼロになるのは厳しいよ。何があるかわからないし……」
「そっか。宿に泊まるかもしれないもんね」

 改めて行こう! と玲が言う。
 とりあえず、弱そうな敵とエンカウントして様子をみたいなぁ。玲の魔法も、昨日見た感じじゃ魔法力がいくら必要かわからなかったし。
 町を出て歩いていくと、不意に手に剣が握られた。

「?」
『敵、発見!』

 マップに表示されるタイプか。一応、モンスターが背を向けた瞬間に近付くと、バトル画面になった。
 真ん中に大きく奇襲成功と表示された。

「烈、慣れすぎ」

 玲が笑いながら言う。
 マップにモンスターが表示されていたら一応背後からエンカウントしてしまう。慣れというよりは、癖だ。できるだけ攻撃を受けたくない。
 凶悪な目つきと牙の小動物が2匹いる。コマンドを開いてみてふと、Active!! と表示されていることに気付いた。奇襲に成功するとゲージが最初から100パーセントらしい。ゲージを表示させてみると、攻撃力のゲージのうち、下の緑色のゲージだけが100パーセント溜まっていた。

「えいっ」

 剣を振るうと、モンスターの少し上あたりに赤い文字でダメージが表示された。最大で60か。一撃だ。だけど、このゲージの遅さじゃ相当鈍い敵じゃなきゃ何発攻撃を受けるかわからないなぁ。
 ……この、肉を断つ感触、気持ち悪い。玲が落ち込んだのもすごくよくわかる。

「風の刃!」

 びゅっと音がしてもう1匹のモンスターに120ものダメージが表示される。同時に、玲の上に青い文字で10と表示される。昨日は必死で、この青い文字に気付かなかった。

「あ、MPが10も削られた。あと6しかない」

 戦闘に勝利したことが表示され、勝利を祝うファンファーレがどこからともなく流れてくる。経験値とアイテムを手に入れた。お金に関してはゼロという表示すらない。アイテムを換金するタイプなのかもしれない。
 それにしても、それぞれ試しというには圧倒的すぎて拍子抜けしてしまった。

「うーん、烈、1回だけ奇襲やめよ」
「うん、そうする」
『敵、発見!』

 良いタイミングでモンスターが現れた。正面からモンスターにぶつかると、同じモンスターだった。
 攻撃力ゲージを表示させると、上の方の青いゲージは溜まるのが早い。青が4分の1、緑は少しだけ溜まったあたりで攻撃する。……と、ダメージは10。

「あ、MPが1回復してる。っていうか7しかないのに使える。風の刃!」

 モンスターに鎌鼬が襲い掛かる。玲の上に表示される青い文字は魔法力で間違いないだろう。使用魔法力は3。ダメージは20。モンスターを1匹倒した。と、玲を眺めている間に元気な方のモンスターが僕に襲い掛かってきた。長い爪が革の鎧に浅く傷をつける。1のダメージを受けた。
 もう一つのゲージは何なのだろう? また青ゲージが4分の1あたりになった時、先程の攻撃で減少していなかった緑ゲージがじわじわと溜まっていっていた。それを確認して攻撃すると、ダメージが30に増えた。
 勝利のファンファーレを聞きながら、攻撃を受けた腕を見る。かすり傷なので全然痛くないのだが、マップに戻るやいなや玲が回復魔法をかけてくれた。僕としては、玲の魔法力が回復したようにHPも回復するのか見てみたかったのだが……仕方ない。

「HPの下にある青ゲージで体力やMPを決めて、その下の緑ゲージが集中力って感じかな。同じMPでも、集中力が高ければよりダメージが大きくなるって感じ」
「確かに、さっきマップに戻って回復した時、MPをどれくらい使うか選べた」
「MPとか体力は減ってるけど、使い切ったらどうなるんだろう」
「……最悪、過労死かな」
「そんなステータス異常嫌だ」

 こればっかりはどうなるかわからない分、試すわけにはいかない。
 とにかく、攻撃に使う体力と集中力のゲージを溜めて効率よく攻撃力に反映させる必要がありそう。

「歩いてたら体力も魔法力も回復するけど、むやみに戦ったらダメってことだね」
「歩いて体力回復ってのも変な感じだけど」

 玲がふふっと笑って歩き出す。次の町までどのくらいかかるだろうか。