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 玲が鎧を脱いでベッドに倒れ込む。僕も兜を外してふかふかのベッドに寝転がる。丸2日も歩くとは思わなかった。

「気分的にはお風呂入りたいけど、必要なさそうだね」
「うん。トイレも行く必要ないや」
「ご飯は食べたのにね」

 そのご飯も、お腹が空いたからではなく体力回復のためだ。汗はかかないし、トイレも必要ない。本来の体に必要な生理現象が止まっている。
 奇妙だけど、夢にまで見た状態だ。初めはわけがわからなかったしとにかくやめたかったけれど、今はモンスターと戦うことも慣れてしまってずっとこのままゲームをしているのもいい気がしてきた。
 ここまでにわかったゲームの仕様をまとめようと思い立ってベッドの周辺を探すと、小さな棚の引き出しにメモ帳が入っていた。
 視界の右上にアイテムゲット、と表示されている。これ、アイテムなのかな。石ころも拾い上げるとアイテムゲットと表示されたし、拾ったら何でもアイテムとしてゲットしてしまうのかもしれない。ポケットが重くなったりしないからいいけどさ。

「玲、寝てなかったらゲームの仕様をまとめよう」
「ん」
「バトルからいくね。昼と夜で出現モンスターが違ったよね」
「うん。で、敵の背後に回ったら奇襲成功。逆に奇襲されたら、先制される」

 あれにはヒヤリとした。奇襲されて、ここまでで最大のダメージを受けてしまった。玲の回復があったからよかったけど、なければやばかったかもしれない。
 それから、今わかっていることだと使用アイテムは装備しないと使えないこと、体力・集中力ゲージが溜まるとそれに比例して攻撃力が高くなること。

「あ、まだ試してないけど、もしかしたら必殺技の使い方わかったかも」
「すごいじゃないか。コマンド入力とかじゃないよね」
「なんかねー、ゲージの枠、ちょっとずつ色が変わってるんだ」

 玲に言われて改めてゲージを見ると――ちなみにこのゲージは、バトルの度に表示させなくても設定画面で常に表示するかどうかを選べたんだけど――、確かにHPや体力ゲージの枠が真っ赤になっていた。

「それでね、玲は町に入る直前のバトルで赤になったんだけど、その瞬間、杖についてたボタンが押せるようになったの」
「……ボタン」
「ボタン」

 僕が装備している剣を取り出してみると、剣の柄が少しだけ浮いていた。あ、これボタンだ。

「ちょっと思ってたのと違う」
「うん……。これを押しながら攻撃したら、たぶん必殺技が出ると思う。もしかしたら、ゲージも最大じゃなきゃいけないとかあるかもしれないから、試してみようとは思ってるけど」
「僕のも赤くなってるから、このボタン押すタイミングも含めてまた試してみよう」

 メモのアイテム名が「れつのメモ」に変わった。そして、だいじなものの中に入った。アイテムには「つかう」「そうび」「だいじなもの」がある。
 しかし……アイテム名に僕の名前が入るんだから、完全にゲームシステムに干渉してるよなぁ。

「玲、装備どうする?」
「んー、整えておいた方がいいよね。そろそろダンジョン攻略来るんじゃない?」
「うん。だから悩んでるんだよね」
「まぁねー、大抵のゲームってダンジョンで装備拾えちゃうし」
「そう。そこ悩んでる」

 玲が言っているのは、ダンジョン内に大抵ある宝箱のことだ。そこで、時に買い揃えたものより強い伝説の武器などが手に入ってしまう。ケチな僕としてはそれがとても無駄に感じるのだ。
 旅に出る前は、悩んだら買おうなんて言ったけど、ここまでの敵はかなり余裕だったし余計に……。

「ここまでそんなに苦労してないし、ダンジョンで揃わなかったものを買ってもいいかもね」
「そうしようか」

 回復薬と体力回復薬、魔法力回復薬などのアイテムだけを買うことにして町を散策した。町の人に話しかけると、時々黒い鎧の騎士が来たという話を聞くことができた。

『誰か!』

 悲鳴を聞いて、体が勝手に走り出す。町の入口に、今にも入ってこようとしているモンスターがいた。その前に飛び出して強制バトルになった。ちょうどいい。ここで必殺技を試してみよう。

「玲、まずは僕がゲージ溜めないまま必殺技使ってみるね」
「うん」
「先に押して攻撃態勢に入る」
「うん」
『竜巻斬り!』

 剣の柄にあるボタンを押して、攻撃を仕掛けようとすると体が勝手に動いて、くるっと回って勢いよくモンスターに切りかかった。
 ダメージは40。ゲージが溜まっていないことを考えると、ダメージは大きい方かもしれない。

「微妙だね! 玲の魔法はゲージ最大ね!」
『極・風の刃!!』

 玲の魔法も今までとモーションが違う。キラキラしたエフェクトが玲の周りを舞って、ポーズを決める。
 なるほど、必殺技にも2段階あるのかもしれない。
 バトルに勝利したファンファーレが流れる中、玲がくすくす笑う。

「変なポーズだったね」
「あのモーション中に攻撃されたら回避できるかなぁ」
「もう! かわいかった!?」
「あー、うん、可愛かったよ」

 玲がよくわからない感じで興奮している中、町の人々が寄ってくる。

『騎士様、ありがとうございました』
『いえ、騎士として当然のことをしたまで』
『それより、なぜ町にモンスターが入って来れるのです? 結界を張っていないのですか?』
『町の外に、モンスターが巣を作ったのです。そのモンスターが結界の基礎となる塔を倒そうとしているのです』
『……、』

 ん? 普通のRPGならモンスターを倒しに行くと即答するところだけど。

『姫様、いかがいたしましょう。城へ連絡して任せてはいかがですか。黒騎士が逃げてしまいます』
『……民を見捨てるわけにはいきません。モンスターを倒しに行きましょう』

 あぁ、そうか。お姫様の結婚相手を殺した犯人を追ってるんだった。

『ありがとうございます! モンスターの巣は、町の東にある結界の塔のすぐそばです』

 町の人達に送り出されて、さっき町についたばかりだというのにマップへ出てきてしまった。

「一応レベル上げつつ行く?」
「その塔の中でいいんじゃない?」
「そうだね」

 モンスターを倒しながら塔をのぼっていく。予想通り、いくつかの武器を拾うことができた。ゲームの初めの方のダンジョンだから、あんまり高い塔だとは思えないけど……。

「あっ、また宝箱発見!」

 歌うように軽やかに、玲が宝箱に手をかけた瞬間――。

「い、いやああああああっ」

 玲の手を宝箱が挟んでいた。いや、これは……宝箱に擬態していたモンスターだ。モンスターに先制攻撃されたんだ。

「玲! このっ」
「風の刃! 風の刃!」

 パニックになった玲が魔法を連発する。

「だめだ玲、魔法力が! 回復できなくなるよ!」
「いやっ、痛い! 痛い!」

 モンスターは玲の手に噛みついたまま離さない。

「はあっ!!」

 一拍おいて斬りかかり、モンスターが塵になってようやく、玲は解放された。体の支えがなくなって、膝を折って地面に倒れ込む。まさか、と思いつつ駆け寄ると、気絶しただけのようだった。息はある。
 玲の右手は血まみれになっている。指も手首もかろうじてつながっているような状態だ。

「玲、玲……」

 回復薬を玲の口に含ませると、小さく喉が鳴った。町までに一度回復薬を飲んだけれど、少しだけ青みがかった透明の液体は、ハーブなどを一緒くたに煮込んだだけ、というような想像を絶する味だった。僕の場合、足を斬られた怪我だったのだが、怪我の治りも早かった。
 なのに、玲の傷は一向にふさがる気配がない。戦闘不能状態――……、なのだろうか。はっと気づいてステータスを見ると、お姫様は戦闘不能になっていた。
 戦闘不能では、まず意識を回復させないと回復薬が効かない。戦闘不能回復薬は持っていない。高くて買わなかったのだ。

「……玲」

 意を決して玲を背負って塔をおりていく。モンスターにエンカウントしないように細心の注意を払い、町まで戻った。
 拾った武器に装備をかえて、古い装備を道具屋に売る。そうしてできた金で、戦闘不能回復薬を買った。
 玲に使うと、すぐに玲は目を覚ました。痛みで泣く玲をなだめて、宿に泊まった。次の日には全回復しているはずだ――……RPGって、そういうものだから。