夢の中の殺人
細いネックレスがかかった首を、両手で圧迫する。肩を膝で押さえるように跨ると、手を振りほどけはしないようだが、腰のあたりをガリガリと引っかかれて少しかゆい。
うるさくじたばた動くので、一度顔を殴りつけると、塗りたくった化粧がべったりと拳についた。腰のあたりを引っかく手に力が入っていて少し痛い。
首の骨でも折ってやりたい。
ヒューヒューと漏れる息を止めるように、首を押さえる手に力を込めた。
ゴキリ。
*
嫌な夢を見た。
喉が引きつれるように痙攣し、空気をいっぱいに取り込もうとする肺が暴れまわる心臓を圧迫する。息を整えようとしていると、びっしょりと汗をかいていることに気付いた。付けっぱなしの扇風機の風で汗が冷えた頃、ようやく呼吸が落ち着いた。それでもベッドから立ち上がることができなかった。手が震えていた。
それからろくに眠れないまま朝を迎え、いつもの手順を踏んで出勤。
数十分遅れてきたのが同僚の山下。不愉快な女だ。しかし、夢の中で殺すほどだったか。
山下は、夢の中で私に殺されたとも知らず、いつものように気まぐれに話しかけてはどう返事しても怒鳴り、重要な内容の相談も無視される。
私は既に慣れっこになっているが、失敗を笑ってごまかそうとするときの笑い声が耳につく。
*
頭が痛い。比喩でも比喩でなくとも、両方の意味で頭が痛い。なんで殺した女に夢の中でまで嫌がらせされなければならないのか。
既に冷たい遺体を蹴りつけて、鬱憤を晴らす。
逃げなければ。
証拠を残し過ぎた。隠すよりもこいつが見つかる前に国外に逃亡した方がいい。
その前にもう一度蹴っておこう。
*
また変な夢。
疲れが全く取れない。今日もいつも通り出勤する。
今日は山下がやけに優しく話しかけてくる。死んだ顔は醜い。どうしてそうも笑えるのか。
あ。これ夢だ。部長の差し入れが有り得ないほどデカい。
何をしても痛くない。
待てよ。夢なら、山下を殺してもいいんじゃないか。
山下の細いネックレスがかかった首を、両手で圧迫する。肩を膝で押さえるように跨ると、手を振りほどけはしないようだが、腰のあたりをガリガリと引っかかれて少しかゆい。
うるさくじたばた動くので、一度顔を殴りつけると、塗りたくった化粧がべったりと拳についた。
首の骨でも折ってやる。
ヒューヒューと漏れる息を止めるように、首を押さえる手に力を込めた。
ゴキリ。
*
ここはどこだっけ。起き上がって、見渡す。
ひどい夢だった。山下はとにかく不愉快だが、夢の中でも殺すとは。
まったく、殺したとはいえ夢に出てこないでほしいものだ。
首を絞める感覚が、リアルに手に蘇る。
あれ、夢の中、なのに。なんでこんなにリアルに知ってるんだろう。
ほっぺたをつねってみると、痛かった。
「……あ、ここ、フィリピン?」
あれ? 夢、だよな。
何が現実で、何が夢なのか。
わからない。