プロローグ
圧倒的な悪には、圧倒的な正義が必要だ。
僕はそう思っているし、きっと世界中の誰もがそう思っているはずだ。
人はそうして勇者を求める。
古い、数百年前の史実に基づく英雄譚。魔王が現れ、神に選ばれた勇者が世界に平和を取り戻す絵本はそこらじゅうにあるし、僕の本棚にも並んでいた。
それから、再び魔物が増え始め、人々は勇者を求めた。
僕もその一人だったし、できることなら勇者になりたいと夢見た。そうして強くなった。世界一の傭兵であり、勇者に一番近い男になった。
今までの冒険を振り返っていると、人々の悲鳴と怒号で現実に引き戻された。
「……あぁ、勇者様……助けてください……」
民衆が、僕を見た。
助けを求めるように、恐怖に染まった目で、神に選ばれていない僕を見ていた。
「魔王が、復活した……」
その報せは、一晩で世界中へ伝わった。