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日曜の朝

 言葉は、なかった。ただ、僕が彼女を好きで、彼女もきっと僕を嫌いではない。ただそれだけでよかった。
 雨の降る朝、気怠い空気の中で、トーストを焼いてる間に顔を洗う。

「うー…朝?寝ちゃったか…」

 彼女ももぞもぞと起き出してきて、少しずつ増えている彼女専用の洗顔剤で顔を洗う。
 まだ少し、昨日の酒が残っていた。

「…私達の関係って、さ…」

 彼女が、ぽつりと呟くように言う。
 脱ぎ散らかした服を拾い上げて洗濯機に投げ込んで、マグカップに牛乳を注いでレンジに並べる。
 トーストとホットミルクがほぼ同時に出来上がり、彼女に勧めると彼女はすとんとテーブルを挟んだ向かいに座った。ホットパンツから伸びる白い生足は、きっと触れたらすべすべするんだろうなぁ。そんな、余計なことを思いながらトーストを頬張ると、彼女はわずかに眉間に皺を寄せて深刻そうな顔をした。

「…何なんだろ」
「ん?」
「だから、私達の関係」
「恋人以外に、何があるの」

 弾かれたように彼女が顔を上げる。
 それ以外の答えはいらないだろうに、わざと驚いた顔をしているように見えた。

「そうよね。私、あなたの彼女でいいのよね」

 呼び方が変わるだけ。でも、そう思っているのはきっと僕だけだ。
 彼女は奇妙な笑みを浮かべた。彼女でない彼女のときには、見たことのない笑顔。

「じゃあ、ねぇ、キスをして」

 それはお願いのようで、命令でもあった。
 拒否をする理由もないので、言われるままにイチゴジャム味のキスをした。

「そっか、恋人、か」

 ぽつりと言って、彼女はくすくすと笑った。その呼び方は、本当は好きじゃない。
 僕と彼女の好きなものは、ほとんど同じだった。だけど恋人になった途端、好き嫌いが分かれるものにぶつかった。
 そのことを僕は、とても残念に思う。

「私はあなたの恋人よ」

 恋人という名前の関係になって、一つ嫌いなものが増えた。この、彼女の口癖だった。ワタシハアナタノコイビトヨ。
 僕を束縛することが、恋人の権利だという。どこで何をしているのか報告することが、恋人の義務だという。権利とは。義務とは。
 わからないよ、と言った。
 なぜこうなったのかわからない。
 ただ、僕の答えは一つだ。

「別れよう」

 彼女は泣いて嫌がったけれど、それすらも「恋人の義務」とやらなのではないだろうか。きっと僕達は恋人でないときの恋人の方が、とても素敵な恋人同士でいられた。

宇多田ヒカルの日曜の朝を聞きながら、そのイメージをかきました。…とはいえ、今回は歌詞のイメージが9割ですが。
この掌編小説は、著作権を放棄します。