泡沫
知ってた。わたしが浮気相手だということは。
乱暴なキスも、抱き締めるのも、遠いところにいて月に二度しか会えない彼女の代わりだと、知ってた。
「…いい?」
でもわたしは知らないふりをした。そしてきっと彼も、気付かないふりをした。
彼の瞳をよぎる彼女への罪悪感は、ゾクゾクするほど心地よくて。わたしにはその罪悪感は、快感で。
彼にとっても、きっとそうなる。
「彼女にしてくれるの?」
あぁ、ほら。また。罪悪感が瞳をよぎる。裏切る彼女への?騙すわたしへの?
わたしだって罪悪感はある。裏切る人がいて、騙す人がいる。傷付ける相手もいる。彼が振り切ろうとするそれを、全て飲み込んでしまえばとても楽しい。
「…」
頬から首筋に手を滑らせて、わたしからキスをする。すると、途端に盛るんだから笑っちゃう。
そのまま、優しい言葉でわたしを騙そうとしてくれればいい。罪悪感に殺されながら。
クセになる感覚。ワルくて甘い、クスリみたいな。きっと気持ちいい。きっとわかる。互いに傷をなめ合うみたいに、殺し合えばいい。
きっともうとっくに、中毒になってしまっているのだ。
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LUNKHEADの泡沫を聞きながら、そのイメージを書きました。
本当はもっと素敵な曲なのでぜひ聞いてください。
この掌編小説は、著作権を放棄します。